「イノセント・マン/ビリー・ジョエル」 83年 評価4


 ビリー9作目のスタジオアルバム。前作とは一変して、一昔前のアメリカンポップスを髣髴とさせるような肩の力が抜けた内容となっている。

 本作からは「あの娘にアタック」、「アップタウン・ガール」などシングルヒットが立て続けに出て、ビリーのアルバムの中では最も売れたものである。確かにまたもや違うスタイルで新境地を開いた内容とはいえるが、逆に本来のビリーらしさは影を潜め、今聴きなおしてみると得にビリーたる理由は見つけられない。ヒット曲は多いが飛びぬけたものは少なく、またアルバムとしてのトータル性が希薄(アメリカンポップスという枠ではまとまっているが)。

 ビリーもついに本作でやりたいことを総てやりつくしたという感。本作後の86年『ザ・ブリッジ』からは大御所としての雰囲気を漂わせ始め、本来の持ち味であるリリカルで偽りのない若さを感じさせることはなくなる。